概要
黒澤明が人気絶頂時に手がけた代表作の一つも言える現代サスペンス映画。制作のきっかけは当時の誘拐犯に対しての刑罰の軽さに対しての憤りであり、翌1964年にこの映画がきっかけで刑法が改正されるというすごい影響力を持っていた。
あらすじ(ネタバレ)
・会社の未来
時は1960年代横浜。製靴会社「ナショナル・シューズ」社の常務であった権藤金吾(演:三船敏郎)の丘の上にある豪邸から物語は始まる。戦後の復興を果たした横浜の街を見下ろす権藤邸に、ナショナル・シューズの役員たちと権藤、そして権藤の右腕の川西の一堂に集まっている。
役員たちは口々に現在の会社の靴に対して不満を漏らす。今のナショナルシューズの靴は丈夫すぎて買い替えが進まない、これからもっとトレンドを意識しつつ原価をかけない靴にすべきと提案する。そして役員たちの持つ株券を結集させ現社長を追い出す計画がある、そして権藤も計画に参加しろということを相談しに来たのだった。
現社長の持っている株式は25%、そして尋ねてきた役員たち分の合計は21%。そして権藤の持分は13%である。そのため権藤と役員を足せば34%となり会社を好きにできると持ちかける。
しかし、靴職人からの叩き上げで職人気質の権藤はその意見に真っ向から対立。コスト削減した安物の靴を売るのは嫌だと対立。役員たちは怒り狂い、ならば社長の方と手を組んで君を追い出す、とすごい剣幕で帰っていく。
・権藤の秘策
強気の権藤は実は切り札があると川西に話す。13%と思われていた株式はすでに28%所有しており、しかも今回銀行から5000万円の融資を受けて、さらに19%を大阪の株主から購入して、合計47%となり、社長も役員も一斉に追い出すことができる予定だと話す。その取引が明日なので、川西に今すぐ大阪にいくように命令する。
・突然の事件勃発
ところがそんな折、権藤亭に奇妙な電話が掛かってくる。権藤の息子を誘拐したので3,000万円の身代金を用意しろという脅迫の電話である。
慌てふためく権藤と妻の伶子だが、心配した息子の金吾は家におり、単なる悪戯電話かと胸を撫で下ろす。
ところが、誘拐されたのは金吾ではなく金吾の友人であり、権藤邸の使用人兼運転手の青木の息子進一が勘違いから誘拐されていることが判明。急いで警察を呼ぶことにする。
・警察の到着
警察が到着し、作戦が練られる。しかし、権藤は自分の息子でもない赤の他人の息子に3000万の金を用意する気はない、しかもその金がないと破滅しかねない大事な金だと強く拒否。片腕の川西もそれに同調。運転手の青木もあんなバカ息子のためにご主人様が金を出す必要などないと強がるが涙を流している。妻の伶子は、金吾と同じように大事友達なのだから出すべきだ、もし破滅してもまた1からやり直せばいいと反対してその日は終わる。
翌日も権藤は払う気はないと突っぱねるが、なぜか川西が払うべきだという意見に翻意。どうやら夜のうちに役員に寝返って権藤を失脚させ鞍替えしようと考え始めたのだった。権藤はそれに気づき川西を追い出す。
しかし権藤は道徳心から結局金を出すことに決める。
・特急電車の上の受け渡しシーン
犯人は7センチの厚みになるバッグの中に入れた身代金を持って、特急こだまに乗るようにと要求する。警察は紙幣の番号を全てメモした上で、バッグを燃やした場合に色のついた煙幕が出るという仕掛けをした上で権藤に渡してこだまに乗車。
車内にも覆面捜査員が配備するが、犯人から車内に電話がかかって気、バッグをトイレの窓から投げ捨てるように指示。特急の窓はどこも開かないが、トイレの窓だけは7センチちょうど開くようになっていた。
権藤はバッグを言われる通り捨てた。犯人はバッグを持って逃走。そして進一は無事に返された。
ここから警察の犯人の割り出しと追跡が始まるが、いずれにしても権藤自身は会社を追われて役員から外されてしまった。
・警察VS犯人
戸倉警部(演:仲代達矢)が率いる特別捜査陣によって徹底的な犯人の捜査がはじまる。目撃証言や逆探知の音声記録の解析、現場に残された物的な証拠(車体についていた土砂など)、進一を誘拐するときに使用した薬物の入手経路などを洗い、とある男女にあたりをつける。
ところが、その男女の自宅に家宅捜査にいくと、すでにヘロイン中毒、しかも通常では考えられない純度のものを使用して死亡していた。しかし盗んだ金は出て来ず、盗んだ金はまだ使うなというメモ書きが見つかる。戸倉は他に主犯の男がおり、共犯者をオーバードーズで殺害しようとしたと睨む。
戸倉は新聞記者たちを呼び寄せる。犯人を捕まえるために新聞各社に一芝居を打ってくれるように願い出る。誘拐の場合は非常に刑が軽いため、どうしても共犯者の殺害も余罪として追加したい。
新聞各社に、盗まれた金の番号が見つかったという記事を捏造させる。犯人はそれを目撃し、自分の指示を共犯たちが破ったと憤り、共犯者たちを殺しに現れると踏む。
そのニュースが流れると犯人は、焦り始め、バッグを焼却するが、中に仕込んだ牡丹色の発煙筒から煙が上がっていることが目撃され居場所が特定される。犯人は権藤邸の近くの病院に勤務しているインターンの若い男竹内銀次郎(演:山崎努)だった。
そして竹内はすでに死んでいる共犯者を殺しにヘロインを持って現れたところを逮捕され、身代金の大部分は戻ってくる。
・エンディング
身代金は戻ったものの権藤の邸はすでに抵当に入り人手に渡ってしまった。また役員からも下されたが、権藤は自らの意思でナショナル・シューズをやめ、もう一度1から自分でやり直そうと小さな会社を始めたという。
犯人の竹内は、貧しく辛い少年時代から、丘の上の豪邸に住む権藤に筋違いの逆恨みをして権藤を破滅させようとしていた。彼は死刑になる前に権藤に会いたいと面会を希望する。
権藤は竹内と面会する。竹内は最初は強がってニヤニヤしながら死刑など怖くないなどと不貞な態度を取り、権藤をイラつかせようとする。
竹内から見れば権藤は「戦後の資本主義で運良く大金持ちになっただけの偉そうな野郎」だったはずなのだが、実際には戦後の混乱期から自分の努力だけで財を築き、しかも使用人の息子のためにその財産も投げ打っておきながら、また1からやり直そうと常に前を向いている格上の人物だった。
竹内は権藤を煽って挑発し、最低のクズ野郎、死ねとかの、口汚く罵倒させようと考えていたのが、権藤はもはや前を向き吹っ切れており、犯人の竹内にもはや何の興味ない様子を見せる。その様子に取り乱した竹内は叫び出すとともに面会のシャッターが強制的に下され映画は唐突に幕を閉じる。
関連作品
「シンドラーのリスト」・・・身代金を入れたバッグの「牡丹色の煙幕」だけパートカラーで表現されている部分を、ユダヤの少女のワンピースのみパートカラーで表現するアイデアに使用。
「機動警察パトレイバー the Movie」・・経済復興によって忘れられていく東京の旧市街の景色と再開発事業に対して恨みを抱くテロリストの帆場暎一という構図や捜査シーンに影響が感じられる。
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