「インターステラー」 ドラマを素粒子として捉えた量子力学的傑作映画

SF映画

概要

クリストファー・ノーラン監督の宇宙を舞台としたSF映画。監修に理論物理学者のキップ・ソーン氏を迎え、科学的な考察にも力を入れた娯楽大作。

主演は、マシュー・マコノヒー。前年2013年に「ダラス・バイヤーズクラブ」にてアカデミー主演男優賞とゴールデングローブ男優賞をW受賞し、全盛期と言われていた時期。

あらすじ(ネタバレあり)

※今回は物理学的な専門用語、知識も交えての解説となるため、学術的に多少語弊があっても簡易的な説明としてご容赦ください。

ロストテクノロジーと再び農業の世界に戻った地球

舞台は近未来のアメリカ。ダストボウル現象という巨大な砂嵐が頻繁に発生し、日照時間が極端に短く、疫病の発生により、農作物の収穫量が激減。食糧難問題が世界を覆い、地球は滅亡の危機に瀕していた。

各国政府は食料問題や農業への投資、教育が最重要課題になってしまい、その他の工業などの科学は忘れられ(侵略しても奪うものがないので軍隊すら解散している)、元NASAの宇宙飛行士であったクーパー(マシュー・マコノヒー)は息子のトムと娘のマーフと共にトウモロコシ農場を細々と営んでいた。

・父マシューと娘マーフの関係

娘のマーフは父マシューと似ており、科学より農業が求められる世界においても、宇宙への憧れや理系的なものに対して強く憧れがあり、そのため卒業したらほとんどが農夫となる学校教育において問題児として浮いてしまっていたが、父マシューはそんなマーフの気持ちが痛いほどわかっていた。

・奇妙なゴースト現象

そんなある日、マーフの部屋の本棚から頻繁に勝手に本が落ちるポルターガイストのような現象が起きる。他にも時計の針の挙動がおかしくなったり、部屋の埃が不気味な紋様を作るなど幽霊の仕業のように思えたが、賢いマーフはそれがモールス信号(トン・ツー)と同じ、2進数によるなんらかの情報科学的な信号なのではないか、と考え始める。そしてその信号が送ってくる二つの数字が、緯度・経度を表し、どこかの場所を示しているのではないかと仮説を立てる。マーフとクーパーはその座標の位置に行ってみると、そこにはすでに解散していたはずのNASAの隠れた基地が存在していた。

・NASAのナザロ計画

NASAは食料問題に予算をかけろという世論の目から逃れて隠れて研究をしていた。

彼らは、ナザロ計画と呼ばれる移住計画を立てていたが、多くの人類を乗せた巨大コロニーごと打ち上げて移住可能な星まで航行するには反重力装置(および未知の重力方程式)が必要であること、しかも移住可能な星も見つかっていないという行き詰まり状態にあった。

ところが、ここ最近に土星近傍にこれまで発見されていなかったワームホールが突如出現しており、そのワームホールを通過して移住可能な星を探すパイロットとして、経験豊富なクーパーに白羽の矢が立つ。

とはいえどこに通じているのかも、いつ戻れるのかもわからない危険な宇宙旅行なため、ほぼ戻れないという厳しい覚悟が必要なため、マーフは父を行かせないように反対するが、結局クーパーは家族と別れ地球を救うためにエンデュランス号に乗って出発する。

・圧倒的な宇宙のスケール

こうしてクーパーは、人工知能ロボットTARSや、ブランド教授の娘アメリア(アン・ハサウェイ)、ニコライ、ドイルたちと宇宙に出、まずは最初の星、水の惑星へと到着するが、近傍のブラックホールの超重力の影響で、たった1時間の滞在で地球の7年間に相当する、というとんでもない星で津波に襲われドイルは死亡。手間取る間に地球では長い時間が経過してしまい、マーフたちはとっくに大人になっているという喪失感を味わう。

・地球に残されたマーフ

地球に残されたマーフは大人になり、NASAのブランド博士の下で重力理論の研究者になっているが、マーフはある日死期が近いブランド博士が重力方程式の解法を実はすでに諦めていたという事実を知る。つまり人類を乗せた巨大コロニーを打ち上げる計画はすでに諦めており、クーパーたちの船に乗ったメンバーと船内の凍結受精卵の子孫で人類を存続させるしかないとブランドは考えていたことを知る。

しかしマーフはそれでも諦めず、重力研究を続け、ブラックホールの特異点にある事象の地平線 *1であれば重力方程式に必要なデータが入手できると考える。

・愛は観測可能な力

エンデュランス号では燃料の問題で2つの候補地から1つを選ぶことになる。クーパーは、有望な信号が発せられているマン博士がいる星を推薦するが、一方アメリアは、エドマンズ博士がいる別の惑星を推薦し意見が対立。これはアメリアがエドマンズ博士と恋仲で私情を挟んでいるということが判明するが、彼女は「愛は観測可能な力」であり、何か意味があると苦しい言い訳 *2 をする。しかし一行は論理的でないと判断、マン博士の星を目指すことにする。

氷の星とマン博士の裏切り

マン博士は氷の星には生命体がおり、居住可能であると説明する。ところがのちにこれは嘘であることが判明し、マン博士は宇宙船を奪って自分だけ帰還するために信号を送り続けていたのだった。

宇宙船を奪ったマン博士だったが、ドッキングに失敗し死亡してしまう。

一連の騒動でエンデュランスは燃料を大きく失い、地球へ帰還するエネルギーは失ってしまう。残る希望は、人工知能ロボットのTARSをブラックホールの中に投げ入れて、重力のデータを地球に送る、というわずかな希望しかなくなる。

そしてクーパーは他のメンバーを別の宇宙船に乗せ、自分とTARSだけでブラックホールの中へとダイブする。

・4次元超立方体 テッサラクト *3

ブラックホールの中でクーパーとTARSは不思議な空間に到着する。そこは不思議な立方体の空間となっており、光や時間、そして折り畳まれた次元 *5 も眼に見える形で存在している。

そしてその立方体の中に、かつての子供時代のマーフの部屋が見つかる。つまり、マーフが子供の頃に自室で経験したポルターガイスト現象は、遙か未来の宇宙からクーパーが起こしていた重力波現象だったことがわかる。そして、クーパーは重力データをTARSにすべて2進法に変換させ、それをマーフに伝えることに成功する。

・反重力の完成

クーパーの送付した重力データによって反重力、ナザロ計画は完成し、マーフは人類を乗せたコロニーを打ち上げ、新たな星を見つけ出す。

そして年老いて死期が近いマーフにクーパーが会いに行く。マーフは父が帰るという約束を疑ったことはないと話す。

補足と解説(独自見解)

*1 事象の地平線 ブラックホールの内部で重力が強すぎて光ですら一度入るともう戻れないとされる領域。特異点とも言われる。

*2「愛は観測可能な力」この映画のドラマとしての面白い構造としては、実はクーパー&マーフ親子と、アメリア&エドマンズのカップルが対比的に描かれている。

アメリアの「愛は観測可能な力」というセリフは彼女の恋心の苦し紛れポエムとして最初は冷笑的に描かれているが、4次元超立方体やワームホールを作り出した彼らと呼ばれている「高次元の生命体」の存在が、どうやってクーパーとマーフの位置情報や親子という関係情報、マーフの自室をテッサラクトの中に接続したのか?という謎を推察するに、実は「クーパー&マーフからは本当に観測可能な愛(しかもブレーン宇宙を通過できる重力子と同じような愛素粒子のようなものが発生しており、反対にアメリア&エドマンズからは真実の愛は発生していなかった」と対比的に解釈することができる(と私は思っている)。

もう少し丁寧に解説する。

・超ひも理論

元々物質の最小単位は「素粒子」というように粒=点=0次元のものとして考えられていたが、そうすると点は面積が0なため、各種計算の際に0が混入してしまい計算が全く成り立たない。

そのため、点ではなく、「1次元の紐状のものがプルプル振動して面を形作る」というモデルが考え出された。そして、この紐状のものが何方向(何次元)に振動しているかを計算式に当てはめると、10次元(プラス時間で11次元)であれば、さまざまな計算式がすっきりと矛盾が生じなくなった。ざっくりいうとそんな理論。らしい。

・余剰次元

超ヒモ理論によって、この世界には10次元が存在しているといろんなことがうまく説明できそうなのはわかったが、しかし我々は幅高さ奥行きの3次元しか知覚できないので、残りの余剰分の7次元は一体どこにあるのだろうか?

そのモデルは折り畳まれた形とか、ホログラムのようにぱっと見平面だけど光を当てると立体的になるとか、色々と仮説が建てられているが、特にブラックホールのような全てを吸い込んでいく超強力な重力の場所にその隠れた次元も存在しているのではないかという説もある(それが本作のテッサラクト)

・重力子と閉じたヒモと開いたヒモ

ちなみにヒモにも種類があり、ヒモが閉じていて端っこがないものを重力(子)と仮にしている。というのは、この宇宙には4つの力というものが物理学的には存在しており、重力もその一つではあるのだが、例えば、冷蔵庫にマグネットがくっつく現象を考えてみると、あんなに小さい磁石が冷蔵庫にくっつく力(斥力)がVSドデカい地球そのものが生み出す重力に勝っているため、重力は4つの力の中でも極端に「弱い」とされる。

では、なぜこんなにも重力だけ桁違いに弱いのかを説明する時に、この宇宙には我々がすむ3次元(+時間で4次元)の世界はブレーン宇宙とよばれる膜に覆われた宇宙であり、その外側にも高次元の宇宙が存在しており、重力は、その膜を透過、通過して他の次元の宇宙まで自由に移動している、だからこの世界には重力だけあんまりいない=弱いという仮説を立てている模様。

そしてその膜を通過できる理由は、重力はヒモが閉じていて端っこというのがないので膜に引っかからないという理屈になっているようだ。

さて長くなったが、もう一度なぜ高次元に住む「彼ら」がクーパーとマーフを結びつけて助けることが可能だったのかを考えれば、上記の重力子のように、愛という素粒子もまたブレーン宇宙の膜を通過でき、観測が可能な力の一つである、と考えると映画の筋書きがスッと通るように思う。キップ・ソーンさんが監修しているということなので、おそらくきちんとその辺まで設定があるのではないかと考えられる。

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