サンセット大通り (1950) ハリウッド・バビロンの頂点

フィルム・ノワール

ざっくりとこんな映画!

・ハリウッドの暗部=ハリウッドバビロン

サイレント映画時代に一世を風靡した世界的なトップ女優ノーマ・デズモンド、しかし時の流れは残酷で映画はトーキー時代に突入し、いつの間にか世間からは遠く忘れられた年老いた存在になっているが、ノーマは寂れた豪邸に引きこもったきり、未だに自分は国民的な人気の大女優であるという誇大妄想に取り憑かれたまま、大事件を起こしてハリウッドを震撼させる。

・ハリウッドが描くハリウッドの世界

・この映画の特徴は、サイレント期の大女優ノーマ・デズモンド役を実際にサイレント期に100万ドルの女優で知られた超大物グロリア・スワンソンが演じ、そのノーマの昔馴染みの知り合いたちも喜劇王のバスター・キートン、サイレント期の三大監督の二人、セシル・B・デミルと、エリッヒ・フォン・シュトロハイムというハリウッド映画草創期の主要人物たちがほぼ本人役で登場すること。そのためストーリー自体はフィクションなのだがハリウッド映画の全てを描いているようなリアリティに包まれている。

概要

「深夜の告白」(1944)や「失われた週末」(1945)など、フィルム・ノワールというジャンルでも功績を残している名監督ビリー・ワイルダー作品。深夜の告白と同様に、冒頭から倒叙トリック的に既に死んだ人間が、自分が死んだ理由をモノローグで語り始めるという特徴的な始まり方から始まる。

あらすじ(ネタバレ)

・オープニング

ロサンゼルスの高級住宅が並ぶサンセット大通りを数台のパトカーが爆走している。行き着いた先の豪邸ではプールがあり、大の字になって浮かんだ男の周囲を警察が取り囲んでいる。「欲しかったプールをこんな形で手に入れるとは」とその大の字の死体が物語を語り始める。

・売れない脚本家ジョー

顔はいいものの、本がまったく売れない脚本家のジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)。狭い安アパートに二人のマフィア風の男がやってくる。3ヶ月家賃(290ドル)を滞納しているので、その代わりにジョーの車をもらいに来たと話す。ジョーは車なら友達に貸してしまって今ないと嘘をつき、借金取りに帰ってもらう。

ジョーはパラマウントに出かけ、社長にどうにか脚本を買ってくれないか交渉するが、事務員のベティ・シェーファーにまで脚本を酷評され相手にされない。

その後、友人やエージェントにも必死に金の無心をしたがむげなく断れてしまう。

・ノーマとの出会い

途方に暮れていたジョーはサンセット大通りを車で走行中、先日のマフィアと鉢合わせ。猛スピードでカーチェイス中にタイヤがパンクし、たまたま身を隠すようにノーマの豪邸に車を停める。

すると、入り口の方から「遅いじゃないか、早く来い」とその屋敷の執事マックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に呼ばれる。何かの間違いだと説明しようとするが、「棺を運ぶなら手伝う」と怪しげな声で言われる。室内は見たこともないほどの豪邸で宮殿のよう。

螺旋階段の上から、ノーマの声がして呼ばれてジョーは上がると、暖炉の前に何かの骸があり、被せた布の合田から毛深い手がダラリと下がっている。ノーマの説明で家族同然だったチンパンジーが死に呼んだ葬儀屋と勘違いしていたことがわかる。

勘違いを晴らすために自分はシナリオライターであることを明かすと、ノーマから自分は往年の大女優であり「サロメ」の原案を考えたので脚本に起こしてほしいと頼まれる。行く当てのない追われる身のジョーは仕方なくそれを受け入れる。

・奇妙な軟禁生活

その日は離れの空き部屋で眠ったが、朝起きると自分の家にある洋服などの小物が全てこの部屋に勝手に移動されている。執事のマックスが全て持ってきたこと、そして滞納していた家賃も既に肩代わりしたので、シナリオが完成するまでここで暮らすように言い渡される。

ジョーはシナリオに取り掛かるが、徐々にこのノーマ・デズモンドという女もマックスという執事もどこか人間的におかしいことに気づき始める。

ノーマは毎日全く家の外に出ようとはせず引きこもったままで、毎日1万通以上のファンレターが届いていると話す(が、それは全てマックスが書いている嘘のファンレター)。

往年の大スターバレンチノが踊ったダンスフロアや、ハワードヒューズなどの富豪しか乗っていなかった超高級イタリア車イソッタ・フラキーニ、ジョーのためにシルクのタキシードに真珠のアクセサリに、南米産の葉巻、とものすごい瀟洒な暮らしを送るが、骨董品のような古い栄華に囲まれてジョーは息苦しくなり逃げ出したいと考えるようになる。

・ジョーの逃亡

ジョーは逃亡し、同年代の若い映画スタッフたちが集うパーティに行く。そこには先日パラマウントで脚本を酷評したベティが恋人ときており、若者たちに囲まれて束の間の楽しい時間を過ごすが、逃げ出したことを知ったノーマは手首をズタズタに切って自殺未遂を図る。

ジョーは急いでノーマに会いに行く。一命を取り留めたノーマはジョーに愛していると告白する。涙に訴えられたジョーはしぶしぶ軟禁生活に戻ってしまう。

・パラマウントへ

そんなことマックスにパラマウント社から電話がかかってくる。ノーマは「サロメ」の話を聞きたいのだろうと、気合を入れてパラマウントへ出向く。

パラマウントではちょうどセシル・B・デミルが「サムソンとデリラ」(1949)を撮影中だった。デミル監督と面会するノーマ。サイレント時代の顔馴染みなので邪険には扱わないデミル監督だが、助監督にさっさと摘み出すように言う。

しかしパラマウントの電話はノーマの所有しているイソッタフラスキーニを大道具として借りたいという内容の電話をしただけだったと発覚する。

その事を知らないノーマは、自分の復帰は近いとその日から毎日美顔マッサージにダイエットにと熱を帯びる。

・ジョーとベティ

ノーマがやる気になっている間に、毎晩ジョーは豪邸を抜き出し、ベティに会って別のシナリオを二人で考えていた。そして徐々に二人の距離は近くなり、ベティは他に恋人がいるにもかかわらず互いに愛し合うようになる。

しかし、そのことをノーマが察知し、ベティに気味の悪い電話をかけるなど邪魔をし、それに憤ったジョーはベティを豪邸に呼び全ての身の上を話す。そしてベティは恋人もおり、将来を邪魔したくないという思いからジョーはベティと別れる。

そしてまた、ジョーはノーマとも別れ豪邸を出て行こうとするが、錯乱したノーマは拳銃を取り出しプールサイドで後ろからジョーを銃殺する。

・最後のスポットライト

駆けつける警察たち。

新聞記者やニュース報道班(パラマウント・ニュース社)も駆けつけ、ニュース用のカメラがたくさん集結する。狂乱しているノーマはニュースカメラを映画の撮影隊だと錯覚しはじめる。

それに気づいた執事のマックスは、「デミル監督がお待ちです」とノーラをカメラの前まで誘い、螺旋階段の上にいるノーマに向けて「(サロメの)宮殿のシーンです!」と叫ぶ。

ノーマはヨハネを殺した後のサロメのように悠然と螺旋階段を降りていく。

階段を降りたノーマは「次はクローズアップね?監督」と言うと、カメラはクローズアップとなり完全に正気を失ったノーマの恐ろしい顔の大写しになって、映画は幕を閉じる。

関連作品

「何がジェーンに起こったか?」(1962)・・ロバート・アルドリッチ監督。ベティ・デイビス主演。同じくハリウッドの闇を描いた作品として人気を誇る。

「マルホランド・ドライブ」(2001)・・・サンセット大通りに並列して走るマルホランドドライブを舞台に、同じくハリウッドの闇を描いたフィルム・ノワール。本作で使用されたものと正真正銘同じイソッタ・フラスキーニが使われている。また、ヒロインの一人リタのモデルリタ・ヘイワースは、サロメを演じた女優。もう一人のヒロインもベティという役名のため、上述の「何がジェーンに起こったか?」も意識されている(はず)。

「マックス・モン・アムール」(1983)・・・大島渚監督。日・仏合作。どのようなオマージュか意図はわからないが、シャーロット・ランプリング演じるマーガレットが、「マックス」という名のチンパンジーと異種性交渉に耽っているという衝撃的な内容。サンセット大通りにおけるチンパンジーはおそらく前年に倒産したRKOのキング・コングの追悼の意味だと理解されるが、監督のビリー・ワイルダーはグロリア・スワンソンに対し、「ノーマはチンパンジーと良い仲だった」とちょっとグロい役作りの説明をしていたとされる。

「ラ・ラ・ランド」(2016)・・・ハリウッドの闇ではなく逆に明るい世界観で内幕を描いた作品。

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